2006冬 アメリカ西南部をまわる旅(4)

荘厳さに声を失うほどのグランドキャニオン


 グランドキャニオン、大峡谷。グローフェが作曲したこのタイトルの組曲があった。世界自然遺産にも指定されているアメリカ有数の国立公園でもある。今回の旅で、ぜひ見ておきたかったところだ。
 アメリカ全土の地図からみると、ロサンゼルスとグランドキャニオンとは、そう離れていないように見えるが、アメリカは大きい。実際は、東京−広島間ぐらい離れている。しかし、アメリカ全体の地図からみると、西部地域のなかにある。それほどにアメリカは広大な国だともいえるということだろう。
 これだけ離れているため、短時間で旅行する観光客は、ラスベガスまで飛行機で飛び、そこから小型の航空機によるツアーをとる人も多いようだ。

 あるいは、グランドキャニオンに最も近いゲートとなる都市であるトゥシャンまで、ラスベガスから飛行機で行く人もいる。
 私は、今回は「レンタカーによる旅」と決めていたので、ラスベガスに泊をとったあと、午前9時頃にそこを発ってトゥシャンに向かうことにした。トゥシャンにあるベストウェスタン・スクエア・イン・グランドキャニオンというホテルを日本から予約している。実は、9時に発ったのは遅すぎた。日の入りのグランドキャニオンを見ることができなくなってしまったのだった。

 トゥシャンまでの途中、どこにも立ち寄らなければいいのかもしれないが、行程の途中にはフーバーダムがある。政治経済科の教員としてこれは見ておきたかった。というのは、このダムの完成は1936年らしいのだが、政治経済の学習では必ず出てくる、大恐慌後の大不況への対策としてのルーズベルト大統領によるニューディール政策のひとつとしてすすめられた公共事業であった建造物だった。フーバーダムの話を授業で話しているのだが実際に見たことはなかった。「地理教師、見てきたような話をし」なんて川柳があるそうだが、私の科目でも「見てきたような」話をしていることは多い。実際に見てくるのと、「見てきたように」話すのとでは、話の厚みがちがうだろう。有名なフーバーダムだけに、ぜひ見ておきたかった。
 フーバーダムによってコロラド川が堰き止められて、そこにミード湖がつくられる。ここでつくられた電力や水利資源がラスベガスなどに送られるということ。
 ラスベガスはネバダ砂漠のなかに忽然とつくられた大都市なのである。

ロサンゼルスからラスベガスまで向かう途中、本当になにもない、小さな灌木がまばらに生えているだけの不毛な土地が延々と続いている。120q/時のスピードでインターステイト15号線のハイウェイをとばしても、何時間も何も利用されていない不毛な砂漠地帯が続くのだ。この光景は日本で見ることはできない。北海道の原野を車で行くとしても、砂漠ではなく緑豊かな草原や湿地帯がある。それに、何時間も人家すらない状態が続くことはない。
 砂漠地帯は不毛なのだが、しかし、ここは、水を引いてやれば耕作地になり都市にもなりうるところなのでもある。ということは、アメリカは、広大な耕作地の潜在力があるということにもなるわけだ。
 こうして、砂漠のなかに、本当に忽然と現れてくる大都市がラスベガスということで、ラスベガスのちょっと手前までは延々と砂漠が続いていたのが、急にビルが建ち並ぶ都会が現れてくる光景なのだ。このような都会を生み出すこととフーバーダムとが大きな関係をもっているということを知ることができた。
 走り続けるばかりでは疲れてしまう。アメリカで交通事故でも起こしたらめんどうだ。集中力がなくなってきたら休む必要もある。ミード湖を見下ろす住宅街のマクドナルドに入ったりしていると、30分やそこらはすぐたってしまう。
 USハイウェイからインターステイトハイウェイ40号線に入る。40号線は、キングマンからウィリアムズ、フラッグスタッフの方に延びている。ここの途中には、アメリカの50、60年代に繁栄し、今は歴史的な道路が部分的に残っているルート66があるのだが、ここを通って迂回する時間はなくなった。ルート66も通ってみたかったのだが残念だ。
※インタースティトハイウェイにつぐ道路.日本でいう国道にあたるが、120q/時の高速走行が可能な区間が多くある
 ウィリアムズにくると、時計の針は3時を指していた。ガソリンの補給と休憩をかねて、デニーズに入った。デニーズは日本でもあちらこちらにある、その系列店だ。日本のデニーズもそうだが、アメリカでも、このお店はフレンチトーストが看板らしい。
 お店にある時計をみると、針は4時を指している。私の時計と1時間ちがう。・・・・そうか、ここは山岳時間で太平洋時間(Pacific Time)のロサンゼルスやラスベガスと時差があるのだ。ちなみに、アメリカには4つの時間帯がある。いやあさすがに国土は広い。
 お店を出たときには、4時半をぐっとまわっていた。太陽はかなり地平線に傾きかけている。冬至から数日しか過ぎていないので、1年のうちでも日照時間は短い季節だ。これでは、当初、目論んでいた、日の入りの頃のグランドキャニオンを見てからトゥシャンのホテルに行くという計画は不可能になる。ウィリアムズからトゥシャンまで、少なく見積もっても100qはある(もっともアメリカでは100qは隣町感覚のようだが)。1時間はかかる。6時近くでは、いくらなんでも暗くなっているだろう。日の入りのグランドキャニオンは諦める以外にない。 案の定、トゥシャンのホテルに着いたのは6時をまわっていた。外はすでに暗い。


 グランドキャニオンは、日の入りの夕方か日の出の早朝がきれいなんだけどねえ・・・・ヨシッ、意を決して、明日は朝早く起きて、かなり寒いだろうけれど、朝焼けのグランドキャニオンを見に行くぞお。ブレックファーストは、朝焼けのグランドキャニオンを見てきてからそのあとにしよう。今日は早く寝なければね。
 トゥシャンに、グランドキャニオンの映像を映し出す巨大シアターがあるようなので、それを見に行って、そのあとは早寝しよう。
 朝早く、5時頃起きて、メイクして、今日の服を選ぶ。コートと革の手袋という暖か装備で車を動かし、30分ぐらいかけて、キャニオンの見学ポイントのひとつであるマーサポイントに到着した。ここは、日の出を見るのに絶好のポイントだとの紹介がガイドブックにあって、観光客もポツポツときていた。
 午前7時。まだ薄暗い。この日の日の出は7時40分頃らしい。着こんで、ビューポイントの縁に立つ。このポイントには柵がしてあるので滑り落ちることはないだろうけれど、グランドキャニオンのビューポイントのすべてに柵がしてあるわけではない。


 この写真は、グランドキャニオンからモニュメントバレー方面に通じる国道脇にもうけられているビューポイントで撮影したもの.時刻は午前11時頃.日の出の頃に撮した冒頭の写真と比べると、太陽光が全面に当たっていて、そのため、岩壁が平面的になってしまっているのがわかるだろうか。グランドキャニオンは冒頭の写真のような風景こそに、その荘厳さが引き立つ.

 峡谷につきだした岩のうえがビューポイントになっている。観光客もすでに何十人かいた。東の空はすでに白みはじめ赤く染まりかけている。日の出が近い。荘厳だ。初日の出を見に行ったこともあるが、ここはグランドキャニオン、荘厳さが格段とちがう。
 一条の光が対面の岩壁を照らし出す。大峡谷全体が赤く染まる。美しい。
 「おお、神よ」・・・・グランドキャニオンを初めて見た西洋人が神にひざまづいた気持ちがよくわかる。これだけの創造物が自然によってつくりだされたというよりは、神によって創造されたと信じたくなる、その気持ちがよくわかる。美しい、というより、なんと荘厳なのだろう。私も、言葉が出ず、その厳かな自然の創造物にじっと見入っていた。寒さを忘れるぐらいに見入っていた。

・・・・我に返る。こうしちゃいられない。せっかくの機会だ。写真を撮らなければ。人の動きを止めさせたすばらしさは、そうそうに体験できるものではない。早朝の寒さをおして、グランドキャニオンの日の出を見に来ただけの甲斐はあった。一生の思いでになるだろうなあ。