留美子のひとり鉄道旅(15)

 四国は松山の
      楽しい伊予鉄道
     


 停車場はすぐ知れた。切符も訳なく買った。乗り込んでみるとマッチ箱のような汽車だ。ごろごろと五分ばかり動いたと思ったら、もう降りなければならない・・・・この文章は、夏目漱石「坊ちゃん」の一節である。ここで書かれている「汽車」というのが伊予鉄道を指しているということらしい。夏目漱石が松山中学校の教師として赴任した、その地の鉄道が伊予鉄道だった。
 こんな歴史のある鉄道は、今も元気に走っている。しかも楽しい電車が走っている。
 伊予鉄道は、普通の鉄道のイメージの電車と路面電車と2つを経営している。郊外線が普通の鉄道をイメージする電車。左の写真がそうだ。そしてもうひとつが市内線。松山市内の路面電車というわけだ。

 市内線の路面電車にユニークな列車が走っている。もっとも観光客用で、普通の運賃にちょっとばかりプレミアムがついた価格設定がなされているのだが、それが右の写真。「坊ちゃん列車」とよぶ。この列車が、小説・坊ちゃんにでてきた「マッチ箱のような汽車」なのだ。ただし当時の列車そのものではない。当時のものは蒸気機関車なのだが、現在のこれはディーゼル機関車とのこと。したがって、列車の煙突は「お飾り」ということなのだろう。
 小説・坊っちゃんの「マッチ箱のような汽車」にちなんで、それに似せた列車をつくり、これを市内の路面電車線に走らせている。普通の路面電車と一緒の線路を走るのだからちょっと楽しい。私が知るかぎりでは、こんな列車が路面電車線を走っているのを、他の地方でみたことはない。

 坊ちゃん列車が終点に着く。機関車なので、電車のようにそのまま逆方向に走るわけにはいかない。機関車を逆方向にしてやる必要がある。鉄道では、逆方向にする場所に転車台があって、それを使って行うのだが、これはけっこう大がかりな装置である。この坊ちゃん列車は小ぶりでそれこそ「マッチ箱のような汽車」ということもあってか、車体をちょっと浮かせて人間の手で逆転していた。路面の線路でこんなのは初めてみた光景だ。
 坊ちゃん列車は観光に一役買っているのだが、これも、夏目漱石が「坊ちゃん」を書かなかったら、こういう光景はなかったということで、松山市にとっては夏目漱石さまさまなのだろう。