留美子のひとり鉄道旅(9)
  パリとロンドンの鉄道旅
 ユーロスター1等車で
        食事を楽しむ


 ヨーロッパはひとつ。そう実感させられる体験ができるのが、パリとロンドンを3時間で結ぶ高速鉄道ユーロスター(ユーロスターにはブリュッセルとロンドンとを結ぶ路線もある)。フランスとイギリスとはドーバー海峡をはさんで、長いこと航路による連絡だった。1994年に英仏の間にユーロトンネルが開通し、この年の11月14日からユーロスターが開業したとのこと。イギリス内は既設の線路を通るため速度はやや遅いが、フランスとベルギーの部分は高速路線を使用するため、最高時速300km/hで走行している。
 日本の新幹線は各車両に動力を分散する電車タイプだが、ユーロスターは機関車が客車を牽引するタイプ。左の写真でもわかると思うが、先頭車両には乗客は乗らない。ここに動力が集中して配されているということ。
 そんなこんなの技術的なことより、ユーロスターは、日本ではほとんど姿を消そうとしている食事が車内でとれること。車窓に流れる景色を見ながら食べられるひとときはなんとも優雅だ。

 食堂車もついているのだが、これは主として2等車(日本でいう普通車)の乗客用。もちろん代金を支払って食べる。ところが1等車に乗ると、1等車の料金に込みになって食事がついているのだ。しかも、食堂車まで行く必要はなく、サービス係員が座席まで食事をサーブしてくれる。航空機の機内食みたいだと言ってしまえばそれまでだが、豊かに流れていく景色を見ながら、1等車というゆったりとしたスペースで食事ができることを考えると、だんぜんユーロスターの方がいい。とくに、夕食の時間帯に乗れば、ちょっとしたコースディナーがサーブのでなんとも優雅だ(時間帯によってブレックファーストだったりランチだったりする)。
 ディナーの時間帯だと暗くて景気を楽しむことなんかできないのでは?などという心配は無用。夏のヨーロッパは夜の10時近くまで明るい。私が乗ったのは、パリからロンドンに向かうときは朝だったが、ロンドンからパリにもどってくるときは、ロンドンのウォータールー駅を出発するのが17時40分のユーロスターに乗車した。パリの北駅に到着するのが21時30分頃だから、約3時間弱の鉄道旅。4時間弱じゃないかと思うなかれ。イギリスとフランスとは1時間の時差があるので、実質は3時間弱ということになる。パリについてもまだ明るかった。流れゆく広々と広がる田園風景を満喫しながら、ゆっくりとディナーを楽しむことができた。

 1等車の座席はゆったりとしている。日本の新幹線のグリーン車よりもゆったりとしているのではないだろうか。横の座席数が、1+2の3席になっているため、空間をゆとりをもってつくっているようだ。
 こんな車両に乗るのであれば、えらく高いのではと思われるかもしれない。ヨーロッパの人が乗る場合には高いのだと思うが、外国人の場合はかなり安い設定になっている。もっとも、日本で、ユーレイルパスだとかフランスレイルパス、ブリットレイルパスなどのレールパスを購入しておく必要がある。こういったパスは、1等でも5日間乗り放題で3万数千円なので、かなりトクだ。もっとも、当該国の鉄道を利用しない場合は意味がないが、私は、フランス国内でTGV(フランスの新幹線)に乗る予定があったためフランスレイルパスを購入しておいた。
 ただし、ユーロスターについては、このパスだけでは乗れない。別料金なのだ。しかし、パスホルダー料金といって、有効なパスを所有している人に対してはパリ・ロンドン間の1等が135ユーロで買える。フランスに着いた日に、シャルル・ドゴール空港のフランス国鉄の駅で、10日ほど先のユーロスターを予約しておいた。

 列車は、ロンドンのウォータールー駅を静かにすべり出す。まさにすべり出すといった形容がふさわしい。各車両には動力がついていないのでモーター音がないのだ。また、機関車タイプの特性なのか、加速は日本の新幹線よりゆっくりしている気がした。
 ロンドンの喧噪をはなれ田園風景になるころに、サービス係員がアペリティフを聞きにくる。ソフトドリンクでももちろんOKなのだが、ここは赤ワインをリクエストした。流れゆく風景をながめながらワインを飲んでいると、テーブルセットと一通りの料理が運ばれてくる。パンは別のバスケットからとるしくみで、2個でも3個でもいいのだろうけれど、淑女?のたしなみということもあり1個にしておいた。スモークサーモンがでてきた。食べ終わるころになると、メインディッシュを聞きにくる。ここでは、フランスの代表的な料理のひとつであるキッシュをリクエストした。キッシュとは、タルト生地にいろいろな具が入り、そこにとき卵を流し込んでオーブンで焼いた料理らしい。つけあわせはジャガイモをバジルとトマトソースで味付けしたもののようだった。私は、キッシュは初めて食べたのだったが、これがなかなか美味だった。ぜひ、家でもつくってみたい。
 フランス料理ではチーズが必ずついてくるようだ。しかも、ちょっと臭みのあるチーズであることが多かった。このときもそう。食べられるけれども、あまり好物にはなれない味だ。
 最後は、コーヒーかティーでフィニッシュ。ここは、イギリスに敬意を表してミルクティーを頼んだ。
 日本にも、こういった設定がある列車が走っていたらいいのだが、あわただしい日本の乗客には向かないサービスなのかもしれない。ヨーロッパのゆとりと優雅さをみた気がした。