サンデー毎日(2000.5.27号)に掲載されました

セクシュアルマイノリテイ
教職員ネットワークの記事

 2001年1月下旬、同性愛者やトランスジェンダーの教職員を中心に、「セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク」を旗揚げしました。
 代表は、京都府の高校教師である高取さんというゲイの方。
 もちろん、ゲイの方の数に比べれば、少ないながらも、私のようなトランスジェンダーといわれている人たちも参加しています。
 高取さんや、海人さん、そして私(宮崎留美子)の3人のそれぞれの人間模様を交えながら、この「セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク」のことを紹介した記事です。
 とてもよく、私たちのことを理解されている、好ましい記事だと思いました。

「先生、ゲイやったんか」
「そうや」
 はっきり答えた瞬間、生徒との間にあった壁が崩れていくような気がした。
 京都府の高校教師、高取昌ニさん(38)はこうしてカミングアウトした−−。
 間髪入れずに、生徒が声を上げた。
「つきあっている人は?」
「募集中」
ドッと笑い声に包まれた。
「アダルトビデオ見てもグッとくるものがないの?」
「グッとくるとしたら男優の方にやな・・・・こんなことまで言わせんなよ!」
 また歓声が上がった。l999年l月のことだった。突然、生徒の一人が立ち上がって、言った。
「おれ、ゲイはきしょい(気持ち悪い)と思っていたけど、今は全然そう思わない。すごいな、先生」
  * * *
 話は1997年にさかのぽる。高取さんの学校の文化祭に参加する教職員劇で、ゲイが主人公の物語を取り上げることになったのだ。
「ここで言わなかったら後悔する」
 覚悟を決めて、一緒に劇の練習をしていた先生にゲイであることを告げた。以来、少しずつ、少しずつカミングアウトの輪を広げ、1年半後に生徒に公表した。
「それまでは生徒に嘘をつくことで、生徒を裏切り、自分を裏切って生きてきた。今はその必要がなくなって、人間って信じてもいいんだって、思えるようになったんです」
 そう語る高取さんの眼差しは穏やかだ。
 今年l月には、教職員団体「セクシャルマイノリティ教職員ネットワーク〈以下STN)」を旗揚げした。日本で初めての職種別セクシャルマイノリティ団体だ。
「カミングアウトの過程で、全国の先生から『同じように悩んでいる』と連絡をもらいました。学校の中で孤立している状況を知り、ネットワークの必要性を感じたのです」
 高取さんの呼びかけに、同性愛者の教師や、自らの性に違和感を覚える「トランスジェンダー」と呼ばれる先生が応じたのだ。
 水面下に沈みがちな彼らとのコンタクトを可能にしたのは、同じく同性愛者である大阪の高校教師、海人さん(38)=仮名=が開設したホームページ「ザ・堂山教師」だった。
「高取さんのことを知り、セクシャリティに悩む教師や生徒のために、僕も何かしたかったんです」

全国各地から会員28人

 1年近くの間に、アクセス数は日本全国から海外まで延べ10万件を超え、ネットワーク結成の基礎となった。
 メンバーは現在28人。小学校から高校まで全国の先生が参加している。ゲイは23人、「トランスジェンダー」が4人。カミングアウトしているレズビアンである大阪市の教師、池田久美子さんも加わった。
 現在はメンバー間での情報交換が中心だが、今後は"多様なセクシャリティ"をテーマにした性教育、人権教育を行おうと計画している。
「プライバシーは厳守しています。孤立している先生は、ぜひ安心して参加してほしい」(高取さん)
 同時に、性的マイノリティであることに悩む生徒のケアにも取り組もうとしている。
 海人さんが語る。
「僕自身、幼いころから父親に『なよなよした根性をたたきなおしてやる』としごかれ、学枝では『ホモ』とからかわれ、小学校5年生で自殺を考えたほど苦しみました」
 自分を否定し続け、まともな男になろうと無理に結婚までした。が、1年で破局。離婚を機にようやく自分を受け入れられたという。
「生徒には僕のように苦しんでほしくない。ありのままの自分でいいんだよ、と言ってあげたいのです」(海人さん)
 STNの結成に、関西大学でセクシャルマイノリテイの人権について教えている石元清英教授はこう話す。
「ごく当たり前に生きることができないというのが問題です。アメリカの調査によると、ゲイは4〜10%いるといわれています。日本も目立たないだけでクラスや職場に自分の性に悩む多くの人たちがいます。特に誰にも相談できずに孤立している生徒にとっては、先生のカミングアウトは大きなカになるはずです」
 実際、少なからぬ教育現場で、セクシャルマイノリティの生徒のケアや受け入れに先生たちが奔走している。ある地方の女性高校教飾は、「今年の新入生に性同一性障害の生徒がいます。面接で、『ホルモン治療を受けている。女性として人生をやり直したい』と話してくれたことで、学校側は女性として受け入れることに決めました。ただ、健康診断や宿泊授業ではどうするかなど、まだまだ課題が多いのが現状です」
と話す。
 もちろん、普通の生徒にもセクシャルマイノリティの先生が与える影響は大きい。
 STNのメンバーで都内の高校で社会科を教える宮崎留美子さん(女装時の名前)は、生徒にカミングアウトした先生の一人だ。
 宮崎さんは生物学的には男性でも、女性として生きたいと願うトランスジェンダーなのだ。中学生のころから男としての自分に違和感を持ち、こっそり女装を始めるようになった。
「自分は変態ではないかと、劣等感のかたまりでした」
 厳格な父の希望で見合い結婚もしたが、女になりたい気持ちは抑えきれなかった。今は土曜の午後が女の時間だ。妻も黙認しているという。

生徒に理解広がる

 転機は98年に埼玉医科大学で行われた性転換手術だった。やっと「私は変態ではなかった」と自分を肯定できるようになり、それからは人権を教える授業の中で、生徒たちにセクシャルマイノリテイに対する差別について話をするようになった。
 昨年6月には、
「先生もその一人です」
とカミングアウトした。
「最初はオカマ?って思ったんです。でも、一つ一つ教えてもらうたびに、考えていかなくてはならない問題だと思うようになりました」
 そう振り返る女生徒は現在、ジェンダーを学ぽうと大学の人間社会学部に通っている。「私たちの活動が、生徒たちのセクシャルマイノリティ理解の手助けになれば」
 宮崎さんは意欲的だ。
 一方、世界を見渡すと、先進国やラテンアメリカ諸国では教職員組合の中にゲイ・レズビアンの部会が置かれ、その諸権利を支持しているという。これに比べれば、日本のセクシャルマイノリティの教職員をめぐる環境作りは、まだ始まったばかりだ。
 前出の石元教授は、
「日本が先進国並みに追いつくには、遠い道のりでしょう。今もテレビでは"ホモネタ"といってゲイを平気で笑いものにします。まずは、これが人権問題であるという意識を育てなければなりません」
 その教育に、同性愛者やトランスジェンダーの先生が学校で大きな役割を果たすことは、間違いないだろう。
   フリーライター・小山美香