留美子が訪れた世界遺産 (2)


文化遺産 ドロットニングホルムの王領地

(2)美しきドロットニングホルムの王領地(スウェーデン) 2006. 8.27up


 数多くの湖と島に立地しているストックホルムは、本当に美しい街だ。公園のなかに都市がある、そんな形容があてはまる街だといつてもいい。
 この美しい都市をもつスウェーデンは、他の北欧の国と同様に、高度の福祉国家をつくってきた。とくにスウェーデンは、200年近くも戦争をやっていない(第1次も2次の世界大戦も中立を守った)。どこの国にもある戦争に関する記念碑(祈念碑)がここにはない。

 スウェーデンは、人口こそ1000万人に満たず、日本の10数分の1でしかない。大国というわけではない。それでいて、国際社会のいろいろなシーンでスウェーデンの名前は数多く耳にする。
 社会保障が高度にすすんでいる国、女性の社会進出がすすんでいる国、税金がとても高い国、医療費も授業料もタダ、原子力発電をとりやめることを決めた国、障害者のインテグレーションがすすんでいる国。いずれもその通りなのだが、短期間の訪問者として訪れたとき、そういったことを体感することは難しい。日本とはちがう、そして、他のヨーロッパの国々ともちがう光景を見ることができるのだろうか。
 ストックホルムを歩いていて感じたことは、子どもの数が多いということだった。というより、子どもが大事にされているといっていいかもしれない。子育てへの男性のかかわりも、日本とのちがいをはっきりと感じるシーンにでくわした。
 平日の午前中、ストックホルムの街を歩くと、男性が子どもを乗せたバギーを押して歩いている姿を普通に目にする。カフェにはバギーを横においた男性どうしが、子どもをあやしながらも、それぞれに会話を楽しんでいる。女性どうしの井戸端会議は日本でもよく目にするが、ここでは、男性どうしの井戸端会議なのである。
 スウェーデンだけではないが、北欧諸国では、育児休暇をとることを男性側にも義務づけている。カップルの自由な選択にゆだねた場合、これまでの「男は仕事」という固定的な性役割分業の流れのなかでは、どうしても育児を行うのは女性ばかりになってしまう危険性がある。フィフティ・フィフティで育児を行う社会にしていくには、強制的に男性側にも育児休暇をとらせるという社会政策が必要になってくる。
 子どもに手厚い福祉政策、男性も女性も、ともに育児も仕事も両立できる社会をつくっていくことで、スウェーデンは女性の出生率を2以上に回復させている「少子化からの脱皮を成功させた国」のモデルかもしれない。


↑ ストックホルム市庁舎

 ストックホルム市の郊外にあるドロットニングホルム宮殿は世界遺産(文化遺産)のリストに登録されている。
 高度の社会保障をすすめ、できるかぎりの平等な社会をめざしているスウェーデンなのだが、実は、この国は王国でもある。王制と平等な社会というのは矛盾するのじゃないかと思われるかもしれない。当然の論理だろう。しかし、スウェーデンも含めて、伝統である王制と平等な社会とを両立させていこうというのも、北欧諸国の知恵なのかもしれない。

 ドロットニングホルム宮殿までは、船で1時間ほどかかる。船着き場は、ノーベル賞の受賞パーティが開かれるストックホルム市庁舎前にある。ここから、ドロットニングホルム行きのボートが1時間に1本の間隔ででている。
 ボートは、メラーレン湖をすすんでいく。市庁舎前から10分もいくと、もうそこは緑につつまれた郊外になる。緑のなかに別荘らしき家々が点在していて、湖にはヨットやボートのバーバーが数多くあり、そこには、無数ともいえるほどのヨットやボートが係留されている。気持ちのよいエンジン音を響かせて、ときにはカップルで、ときには友人どうし、そして家族を乗せたボートが、私たちが乗っている船とすれちがう。北緯60度という高緯度に位置するストックホルムは、夏期間は、午後8時、9時は、まだまだ明るい。太陽を楽しむかのように、アフターファイブに湖をボートでクルーズするのだろうか。
 東京のように、勤務場所から自宅まで1時間も2時間もかかることはない。都市域が広くないため、勤務場所と自宅は近いのだと思う。そして、都市の真ん中にも、ヨットやボートのハーバーがつくられているのだ。勤務が終わって、ボートで郊外の別荘まで乗っていく、なんてこともありえるのかもしれない。
 ローマでもパリでも、いわゆるホームレスの姿をみかける。しかし、ストックホルムではみかけなかった。
 ホームレスが皆無だとは思えないが、社会保障が高度にすすんでいるため、こういった人たちはほとんどいないのかもしれない。
 高緯度の太陽の斜光が美しい風景を醸し出す。景色にみとれているうちに、船はドロットニングホルムの船着き場に到着した。


↑ 中流層を普通の家庭でも別荘を持ちヨットやボートを持っている
満ち足りた豊かさを享受しているようだ

 ドロットニングホルム宮殿には、今も王族が居住しているとのことだが、居住スペースは公開されていないのは当然だが、それ以外の場所は公開されて、私たち外国人でもみることができるようになっている。
 日本の皇室を考えたとき、皇居の一部でも公開の対象になっているかといえば、まったくなってはいない。王室を認めるスウェーデンであるとはいえ、王室はなるべきオープンにしていこうという考え方なのかもしれない。
 宮殿を警護する衛兵がいる。ドロットニングホルム宮殿の方ではなく、ストックホルム市内中心部にある王宮で、衛兵の交代式があった。背が比較的低く、どうも胸のあたりがふくらんでいるように見える衛兵がけっこういた。目をこらしてよく見ると、その衛兵は女性だった。男性の衛兵とまったく同じ制服を着ていたので、はじめは女性だとは気づかなかったのだが、かなりの比率で(40%ぐらいはいきそう)女性が衛兵をやっていて、もちろんそのなかには指揮官の任を果たしている人もいた。
 男性が普通に育児休暇をとっている光景と、女性の衛兵。スウェーデンという社会が、男女で性役割を決めつけるのではなく、ともに平等に社会を担っていっているということが強く印象づけられた2つのシーンだった。


↑ 王宮であった衛兵交代式にて.女性の衛兵さん