No.114 神奈川県警警察官からの職務質問〜権利を意識することの大切さ〜
警察官が何人か近づいてきて、突如疑われ、職務質問をされたら、もちろん動揺する。でも、自分が何も違法行為をしていない自信があれば、堂々と職務質問をはねのけることができるのだが、警察官側の居丈高な物言いに臆してしまって、また、ことなきを得てはやく解放されたいとの気持ちから、警察官の言うがままに答えてしまっているのが現実ではないだろうか。
市民にはどういう権利があるのかというしっかりした知識があれば、警察官が何人いても堂々と渡りあえることを体験してしまった。その体験記である。ぜひ参考にしてほしい。
←紫陽花が咲く成就院の参道
6月のある週末、鎌倉にある成就院の紫陽花が見頃だということで、JRで東京から鎌倉へ、そして江ノ島電鉄に乗り継いで極楽寺駅から歩いて数分というところにある「あじさい寺」を見に行ったあと、そこから由比ヶ浜を俯瞰できたこともあって、そこまで足をのばしてみようということで海辺まで行き、あれこれと写真を撮っていたそのときのことである。
家族連れというわけではなし、1人でぶらぶらとしていて、傍目には「男か女かわからない奇妙な人」に見えたのかもしれないが、コンパクトカメラではなく一眼レフを構え、三脚を持っていてウロウロしていたということがあるのだろう。さらには、あとで、警察官からの説明によるものなのだが、毎年、由比ヶ浜での盗撮事件があるということが背景にあった。
浜の近所の住民から110番電話があって、なにやらカメラを構えた怪しげな人が浜をぶらぶらしているということで、警察官が2人やってきて、私に職務質問がはじまった。ちなみに、警察官とは神奈川県警である。
私「なにか、問題になることをしているんですか?」
警官「近所の人からカメラを持った人がうろうろしているという通報があって・・・」
私「風景を写すことが、なにか問題なんですか?」
←由比ヶ浜、ここで写真を撮っていると警察官が職務質問してきた
警官「このあたりは、毎年、盗撮事件があって、大きなカメラを持っていて、一人で写しているというので疑われたということだ」
警官「名前は?」
私「宮崎留美子、もちろん本名じゃありません」
このあと、私も、自分の潔白を明らかにする意味もあって、写したカメラの写真を警察官に見せた。もちろんなんの問題もない。
警察官の言うがままにしていれば、このあと、本名と住所に答え、それでなにも問題がなければすぐに解放されたと思うが、ただ写真を撮っていたというだけの人に、これほどに居丈高に職務質問されたという理不尽な思いもあって(警察官側とすれば盗撮事件が頻繁にあるという現実の中では職務を忠実にこなしたということなのかもしれない、との理解はできる)、授業で話していた、「職務質問は任意のものであって、それを拒否する権利がある」ということを実践してみようという気になっていった。
このあたりから、当初の急な警察官からの職務質問という動揺は薄れてきて、私の「悪いクセ」である(^^;)、「権力を持つ人(権力的に威圧する人)に対してゲームしてやろう」という気持ちがわいてきた。議論の場になったら、おいそれとは負けないという自負もあった。警察官3人(あとでもうひとり来た)を相手に、私の弁論で相手を打ち負かすことができるかどうか、ちょっと面白いと思ったのだ。下手すると、1時間ですまずに2時間、3時間とかかるかもしれない。でも、警察官という、下手すると職務執行妨害で逮捕もできる相手を対象に、理論だけで職務質問を拒否できるかという「ゲーム感覚」、いや、もう少し言うと、授業の資料集あたりに載っている「職務質問への回答は任意、拒否できる」ということが現実にやれるのかという、文字面での理論が現実に適用できるかどうかという興味もあったというのが、最も大きな理由だろう。
結論からいう。文字面の理論はちゃんと適用できる。つまり、知識は力になりうるという体験ができた。もし、ここを、高校生や大学生の見ていたら、ぜひ心してほしい。
「知識は力、知は力」 断言できる。だから、ぜひ、いろんな知識を身につけていってほしいと思う。そのことが自分を守ってくれることにつながるのだから。これは、法律関係の知識だけでいいということとはまったくちがう。今回の警察官とのやりとりのなかで、日本は、旧ソ連や北朝鮮とちがって、市民が街を出歩くのに身分証明書など要らない社会だということ、それが警察国家ではない民主国家の大事な要件でもあるということを、私は警察官にレクチャーした場面があった。相手はピンときていないようだったか、それでも、私のレクチャーにはなんの反論もできなかった。非常に現実的な言い方もするならば、知識は、(そのことをよく知らない相手を)煙にまくということにも役立つという側面もある。数学でも理科でも、社会科はもちろんだ。国語力は知識を得る源泉となる。直接に関係ないことが、実際はトータルとして「力になる」ということは、私の体験として声を大きくして言える。
「若者よ、勉強してほしい」「知は力になりうる」
社会科で得た知識で十分すぎるほど通用し、職務質問を拒否できて、無事に解放された。しかも、途中からは、警察官側もていねいな言葉遣いになってきた。居丈高では通用しないということがわかったのだろう。
盗撮などやっていない、「善良な」一市民だとわかったのだろう。最後に、ということで、住所・氏名を聞かれた。
そこで、私は、「答えることができない。拒否します」と返答した。
警察官の態度が変わったのはここからだ。
警官「質問しているのになんで答えられないのか」
私「職務質問に答えるかどうかは任意のはず」
警官「みんな、普通に答えている」
私「みんなどうしているかは関係ない。答えるかどうか任意なのが職務質問だ。いったい職務質問に答えなければならないという法律があるのか。あれば言ってほしい」
警官「職務質問はやっていいとなっている。答えなければならないんだよ」
***私の言う論旨が理解できていない。職務質問をやっていいかどうかということと、それに答えなければならないかどうかということとは同じではないということが理解できていない***
これは、ちょっとレクチャーする必要があるなあと考え、まずは、
私「えーっ、その発言って問題だよ。ちょっとメモとるからもう一度言って。いいですか、職務質問には市民は答えなければならない義務があるんですか、ここのところをはっきり言って」
やはりまずいと感じたのでしょう。ウヤムヤに逃げて言い方を変えてきた。
警官「住所・氏名を教えてほしい、お願いしているのだ」
私「わかりました。お願いですね。だったら、その願いは受け入れられません」
警察官は、これ以上突っ込むことができなかった。下手なことを言えばメモをとるしね。
警官「こんなところだと話もできないし、通行人にも邪魔だから、そこの交番まできてほしい」
ほらほら、常套手段だ。交番に強制的に同行させるには裁判所が発行する逮捕状が必要だという知識があることは、こういうときには強みになる。
私「どうしても来てほしいというのであれば、逮捕令状を示してください」
警官「逮捕とかそういうことじゃない。話を聞くだけだ」
私「行くかどうかは任意ですよね」
警官「だから、お願いしている」
私「はい、わかりました。であれば、拒否します」
さあ、つぎはどう出てくるかと、ちょっと戦々恐々。同時に、面白くなってきたぞ、という興味。
警官「住所・氏名を教えてくれたならば、もうそれですぐ終わりだから。言ってくれないと、いつまでも終わらないよ」
さあ、これも常套手段だなあ。脅しか。私はもうすでにゲーム感覚になっていて、今日のショートトリップのひとつは警察官とのゲームだあと思うようになっていたため、時間がかかるということはたっぷりと楽しめるということにもなるわけで、そういう脅しには乗らない。
さかんに携帯で連絡をとっていて、さらに警察官がもう一名やってきた。
私「いいですよ、いつまででも」
警官「私たちも報告しなければならなくて、その立場もわかってよ。住所・氏名がないと困るんだよ」
私「そちらの事情は知りません。でも、そんなの、私は知ったことじゃないですよ」
警官「なんで教えてくれないのだ。やましくないならば言ってもいいはず。言わないというのは、なにかやましいからなのか」
さあ、きたきた。「やましくなければ言ってもいいじゃないか」・・・この論理にはきちんと筋立てて反論しなければならない。これは面白い。
私「やましくないならば言ってもいい・・・この論理がおかしくないですか。日本は外を出歩くのに身分証明書を義務づけていません。匿名の人として出歩くことができるのが日本の社会です。悪いことをしたのならば、そりゃ聞かれるのはしかたがない。でも、私は、カメラを見せて写した写真を確認してもらった。なんの問題もなかったですよね。なにも問題がない人に対して、住所や名前を聞くこと自体がおかしくないですか。いいですか、日本は身分証明書を持ち歩かなければならない国ではないんですよ」
やましくないならば言ってもいい・・・この論理に乗ってはだめだ。やましいとかやましくないの問題ではなく、善良な一市民が匿名で歩ける権利こそが大事なのだということ。警察官に住所・氏名を言わなければならない義務はどこにもないということ。これを相手にしっかりとわからせることが必要だと思ったのだが...うーん、警察官は、私の論理になんの反論もできないものの、いまひとつ十分に理解しがたいようだった。
←鎌倉駅近くの鶴岡八幡宮に向かう段葛、1時間以上も警察官とのやりとりで時間を使ってしまったので薄暗い時間になっていた
たぶん、ほとんどの人が住所・氏名の質問に答えているのだろう。普通の人は善良なので、住所・氏名を言ったところでとりたててなんのデメリットもない。それではやく解放されるのならばそうしたいと思うだろう。職務質問の基本項目であるだろう住所・氏名を拒否する論理が、たぶん警察官には理解しにくかったとかもしれない。「やましくなければ言ってもいいはず」というその部分の理解を超えることができにくかったのかもしれない。
だから、最後の局面では、「あなたの言う理屈はその通りだ。まちがっていない。でも、出動したことの報告しなければならない私たちの立場もあるから協力してよ」という懇願にも似た言い方に変わっていたのだった。もうこのころでは、言葉遣いもていねいになっていた。ここで、涙をほろりとさせてはいけない。懇願も常套手段だと思うべきだろう。
私「協力してほしいというお願いは聞きましたが、私は拒否します」
このあとは、職務質問の本論部分ではなく、自分たちもニューハーフのショーを見にいったことがあるとか、本当の女性よりもきれいだとか、そんな話がしばらく続く。
警官「でも、君も化粧をきれいにしているね。脚がきれいだねえ。自分の脚なんかゴツゴツしてるけどねえ」
うーん、職務質問の警察官からでも「脚がきれい」とほめられると悪い気はしない。こんな話で10分、20分。
よもやま話には乗るけど、脚をほめられても、でも、教えないものは教えない。その切り分けだけはしっかりと維持した。
このころになると、私も、もういい加減疲れてきた。1時間にはなるだろう。よし、相手が納得できる理由を考えてやろうと、ちょっと戦術的になることにした。
私「ねーえ、私とツーショットしようよ。で、取引しよう。ツーショットさせてくれたら名前と住所を言うよ。ツーショットの写真は私のホームページで使わせてもらうけどね」
警官「うーん、そりゃ、ちょっとまずいでしょ」
想定通りだが、取引には乗ってくれなかった。ツーショットの写真が撮れたら、名前・住所を言うことぐらいなんてことはない。ホームページの素材としては抜群だ。残念!!
私「女性モードとしては宮崎留美子なんで(この名前は最初に言っていた)、自分は女性でありたいので、男性名の名前を言うことのつらさをわかってよ」
パスポートなど、やむをえず公的な場面では男性名を使っていることはそれなりにあるため、女性モードのときに男性名ということは嫌だけど、それは拒否することの決定的理由というわけではない。でも、「男性名の名前を言うことのつらさをわかってよ」という理由だと、なんとなく理解しやすいかなあと考えた。身分証明書を持ち歩かなくてもいい日本社会は、匿名でいる権利があるというような「権利概念」は、警察官にはどうも理解させにくいということを感じたからだ。「やましくなければ話していい」という単純な論理の世界で彼らは泳いでいるようだった。だったら、権利概念ではなく、「つらい」「苦しい」という情感の方がわかりやすいかなと思ったのだ。
案の定、この理由には乗ってきた。権利概念で話していったときには、いまいち理解した風ではなかったが、「つらい」「苦しい」ということにはけっこう理解を示す。・・・うーーん、まったく。
1時間以上、立ち話というかやりあいをやっただろうか。結局、私から住所・氏名を聞き出すことは不可能だとあきらめたみたいで、やっとのことで解放してくれた。しかし、解放するときも未練がましく言う。
警官「交番で、あなたの気持ちをみんなに話してくれないか」
***交番なんかに行く義務はないって...もう
警官「名前を言いたくないのは、男性名を言うことがつらいからなんだね」
***まーだ言っている。わからない人だなあ...それが主たる理由じゃないといってもとても理解しそうにないので、私もめんどうになってきた。
私「はいはい、そうです。でも、それだけじゃないよ。身分証明書を持ち歩く義務のない国で、悪いコトしていないのに、住所・氏名をいわなければならないというふうなあり方にも疑問があるんだからね」
***主たる理由を「つらい」「苦しい」ということにしてしまえば、不承不承も納得したみたいなんですねえ。
警察官は、人を疑い、相手がウソを言っているのではないかと勘ぐるのは仕事かもしれない。そして、弱い立場の者には強権的に高飛車にものを言うことで、相手をしおらしくさせることができるという、そういった職務の経験の積み重ねは、その人となりも変えていく。たぶん、権利概念で理解しようという心そのものを持ち得ないようになってきているのかなと感じたのだった。私だって、教員ではなく警察官を仕事にしていたら、ここの警察官とたぶん同じような対応をするようになっていただろうなと思う。だから、この警察官を憎く思うようなことはなかった。・・・しかたないなあ、そんな気持ちだろうか。
私「じゃあね。バイバイ」
にこっと微笑んで、警察官の元を去っていき、この日の記念すべきイベントは終わった。