No.94 ハッテン場はもうひとつの自助グループ(写真追加改訂版)


ハッテン場はもうひとつの自助グループ(エッセイNo.53の改訂)

女子高生スタイルの 悠木さやか さんと出会って

 以前、ここのコーナーでハッテン場(*)というところが、普段の生活の場では、周りにはなかなか話せない同好の人たちの集いの場という面があることを書いたことがあった。今回は、そのことを改めて感じることができたひとりのトランスジェンダー(**)を紹介したい。

←写真の 悠木さやか さんと会って、このエッセイを書いたのは、2003年の2月。そのあと、しばらくお会いしていなくて、先日、再び、お会いできました。左の写真は、2005年9月のものです。ちなみに、下の写真は、2003年のものなので、2年半のブランクがあります。この2年半で、悠木さんは、とてもすてきになっていると思いませんか? 実は、デジタルカメラも、より高性能のものになっています。カメラのちがいもあるのかな? 私も、こちらの写真の方がすてきでしょ。

 性を変えて生きていきたい人が集う組織には、ひとつには「TSとTGを支える人々の会」や、その他にもいくつかの自助グループがある。それまではバラバラであった人たちが集い、悩みを分かちあい社会に対しての働きかけを行ったりする。社会的には表の場で動く組織ともいえるだろう。しかし、こういった組織で、すべてのトランスジェンダーがカバーできているわけではない。
 社会的には「裏の場」と見られていて、表に出て何かを主張したりするということはないのだが、もう一つの隠れた自助グループの役割を果たしている場所がハッテン場であるということをご存じだろうか。ここには組織も規約も会費も会員システムもない。でも、しっかりと定期的に集ってくる人たちがいるのであって、メンバーや集う頻度は、表の場の自助グループよりも、かえって多いとすらいえるかもしれない。

 東京の上野のハッテン場のひとつに、トランスジェンダーが集まってくる場所がある。ここに〈悠木さやか〉さんという女子高生の制服が好きな子がいた。フェティシズムだと決めつけてしまえば、性同一性障害とは無縁の存在になるのだろうが、よく話を聞いてみると、簡単には割り切れない性の複雑さがわかる。
 彼女は(心の性にしたがってそう呼ばせていただく)小学校6年生あたりから、自分が生まれてきた性に違和感を感じだし、女性の衣服を身にまとうことを始めだしたという。そして、妹が中学校に入り制服を着始めたころから、女子生徒の制服にあこがれるようになり、妹に無断で拝借しては着ていたという。
 女性でありたいということが、どうして制服と結びついたのか、そのあたりを聞いてみた。
「小学校の頃は、服装の男女差などはあまりなかった。でも、中学校になると、制服というはっきりした男女のちがいができて、女子の制服を着ることで自分が女性であるという気持ちになれた」
 このときのこだわりが、その後の彼女の「女性でありたい」という姿勢にも影響を与えることになった。会社員になってからも、女子生徒の制服を着たいという願望を捨てきれなかった。当時、ブルセラのお店が流行っていて、彼女はそういう場所で制服を入手したという。ブルセラと言えば、女子高生の若い香りのイメージで興奮したいという男性をターゲットとしたお店だったのだが、決してそういう性的興奮のためのショップだけではなかったのだ。自分が女性であることを認識したいために求めに来るという、こういった人たちもいたことを知った。
「ニューハーフの人たちを普通に受け入れてくれるようになれば、自分も体を変えて女の子になりたい」
←こちらの写真は、2003年2月に撮したものです。上の写真と比べると、私は、なんだかダサーイ(笑)

 言葉通りだとしたら、これは立派なトランスセクシュアル(***)だ。このように語る彼女と性同一性障害だと主張する人たちと、はたして境界線はあるのだろうか。この人はフェチ、その人は女装マニア、あの人は性同一性障害などと区分することに、はたしてどれだけの意味があるのだろうかと、ふと思ってしまう。性同一性障害だとまじめにとりあげられ、フェチや女装マニアとされると興味本位になってしまう状況は、やはりおかしいと思う。人の性のひとつのあり方にある命名がされたとしても、それは便宜的なものであって、社会の受けとめ方や解釈の意味づけによっては、いくらだって変わりうるものなのだ。 自分とちがったあり方の人を自分とはちがうと突き放してしまうのではなく、百人が百通りの色合いがあり、みんなちがってあたりまえなのだと受けとめて、共有できる「何か」を大切にしあう心の方が、より大切である気がする。

 会社や家族の人たちは、彼女のあり方はなかなか受け入れてもらえない。でも、上野の映画館に来れば、何の違和感もなく受けとめてくれる人たちばかりで、そして、なによりも「女性」として扱ってくれる。心が癒される場所なのだ。表の組織だけではなく、こういった、ハッテン場というような裏の「集いの場」も、トランスジェンダーにとっての大切な場所なのだという視点を持つことが大切なのではないだろうか。そこで心を安らげている人たちが現にいるのだから。

 

(*)もともとは同性愛者が集い性的な雰囲気も含めて相手を見つけに出会う場所.MTFトランスジェンダーとそれを好きな男性が集う場所がある

(**)性を越境して生きていこうとする人たちを指す用語

(***)一般的には、手術によって体の性を変えていきたいと考える人を指す