No.83 「正月パス」で函館の夜景を見に行く
このところ、エッセイが、性同一性障害がらみの話が続いていたこともあり、今回は、ちょっと気楽な話。
関東・東北の方しか知らないかもしれないが、JR東日本が発売している「オトクなきっぷ」がある。管内、全線乗り放題のきっぷのことなのだが、3連休となるときに発売されているのが「3連休パス」。これは26000円。正規運賃に比べれば、使いようによってはけっこう安いのだが、しかし、手軽に旅行するという金額ではない。
ところが、年に1回、手軽に旅行できる金額のきっぷがある。「正月パス」といって、12000円で管内乗り放題。ただし元日1日間だけというのが制限である。年末の帰省と年初の帰京との狭間でポッカリと空く1月1日を、うまく商売に結びつけた発想なのだと思うが、これを利用した「日帰り遠距離旅行」客が増え、知る人ぞ知る人気商品となっている。昨年までは、文字通り「管内」であったため、北は青森止まりであった。今年から、2000円アップして範囲を函館(ここはJR北海道管内)まで広げて売り出された。実質的には値上げだと思うが、北海道に足を踏み入れたかった人にとってはグッドな商品価値があるのかもしれない。
前日31日に、このきっぷを購入した(発売は前日まで)。当日までどこに行くかは決めていなくて、漫然と、三陸の方に行ってみるかぐらいに思っていた。
東京駅には午前6時半ごろに着いた。東北新幹線の「はやて」は全席指定のため、この時点では指定などはとれない。そこで、7時8分の「やまびこ」・盛岡行きに乗ることに。これには自由席があり、始発の東京からだと着席も可能。
終着駅の盛岡には、10時32分に着く。さてどうするか。ともあれ、時刻表を買って研究だということで、駅のキヨスクでそれを買う。
三陸もいいけど、北海道に足を踏み入れるのもいい。まだ、青函トンネルを通ったことはなかったので(北海道は飛行機ばかりだった)、函館もいいね。函館で海鮮料理でも食べてこようかなあ・・・・しかし、そうなると、函館での滞在時間は1時間ぐらいしかとれないのでは?・・・・それもつまらない。
んー?? 確か、フリーきっぷは、途中下車しなければ、日時が翌日になっても有効だったはずだ。ということは、函館を夜に発つ列車があれば、それでもいいことになる。
ということで、時刻表をパラパラを見ていった。あるある。寝台特急の北斗星。寝台車には乗る機会はほとんどない。まして、有名な寝台特急である北斗星の切符など無理だろう。まあ、でも、一応聞いてみるか。・・・・みどりの窓口に行ってみた。
聞いてみるものだ。私が願っていた切符はすべて確保できることがわかった。
盛岡→八戸の全席指定の「はやて」、八戸→函館の「スーパー白鳥の指定席」。そして、帰りの列車として、函館→上野間の北斗星4号のB寝台(函館23時48分発)。「正月パス」だけで、特急の指定席までは乗れるのだが、寝台車の場合は、寝台特急料金だけは別料金になる。でも、北斗星に乗れるのであれば全くラッキーだ。すぐに決断した。
今年の年末は、東京でも雪になった。津軽半島の野山はかなり積もった雪で、一面、真っ白。いかにも雪国。そして、空はどんより曇っていて雪も降っている。
青森駅を出て30分ぐらい走っただろうか。アレヨという間に長いトンネルに入った。行けども行けどもトンネルは続く。これが青函トンネルなのだなあと妙に感心した。イギリス−フランス間を結ぶユーロトンネルより青函トンネルの方が長いという。
トンネルを抜けると、そこは北海道。
なんだか明るいぞ。空は晴れていて、家々の屋根はカラフル。東北・津軽の灰色のイメージとは全然ちがう。雪は積もってはいるが、それほど深くはなさそうだ。大学時代、札幌にいたときも感じていたのだが、北海道と東北はちがう気がする。イメージだけではなく、冬のどんよりと曇った空と降り続く雪が東北・津軽とすれば、北海道は「明るい雪」なのだ。海峡を隔てただけでこうもちがうのか。新たな発見でもあった。そういえば、「トンネルを抜ければ雪だった」という関越トンネルを通ったときも、全くちがった地域を感じたことがあった。関越トンネルに入る前の関東では、空はくっきりと晴れた青空だったのに、トンネルを抜ければ、そこには吹雪が待っていたという経験がある。トンネルは、2つの異質な空間をつなぐ「魔法の通路」のような気がする。
函館到着は15時16分。函館にきた以上はやはり夜景をみてみたい。暗くなるまでにはもう少し間がある。かといって、元日であるため、お店はそうそうに開いてはいない。結局、ホテルの喫茶ラウンジでしばらく過ごし、暗くなったころを見計らって、タクシーで、函館山へのロープウェイ乗り場へと向かった。
函館山から眺める夜景は、これは絶景。1年半ほど前、ビクトリアピークから見た香港の夜景もなかなかすてきだったが、私個人の感覚からいうと、こちら函館の夜景の方が美しいと思った。函館市街は半島にあるのだが、その両側に漆黒の海が迫り、海岸に停泊する船の灯りもまたロマンティック。・・・・しかし寒い。さすがに北海道。東京の夜とは、気温が質的にちがうと感じる。体の芯まで冷えるといった表現が当たる。ウールのコートを着て手袋をはめているのだが、それでもだんだんと芯まで冷えてくる。
元日なので、お店はほとんど閉店している。たまたま、駅から5,6分のところにある海鮮料理の「嘉兵衛」というお店が開いていた。寝台特急の発車まで4時間弱ある。とにかく、この店で、北海道の味を堪能し時間をつぶそう。暖簾をくぐった。
お店の人がカウンター席に案内してくれた。
日本酒は苦手なのだが、地方では、やはり地酒を飲もうと、地酒の冷酒を注文する。北海道の大きなホッケ、それに、ホタテの刺身、バター焼き。ホッケは安価なので、大学時代の飲み会といえばいつもホッケだった。久しぶりの北海道の「味」に懐かしさを覚えた。両脇に座っていたカップルのお客さんとも和やかになり、2時間あまりが楽しく過ぎていったことは、旅のいい思い出として残っている。
ピーーッ。北斗星が滑り込むようにホームに入ってきた。ブルーの寝台車両、いわゆるブルートレインに乗るのは今回が初めてだ。それなりに、期待して車内に入っていった。
B寝台でしかも上段だったこともあって、ベッドはけっこう狭い。お世辞にも「動くホテル」とは言い難い。トラベル雑誌で見かける「動くホテル」を体験するためには、個室のスイートでなければならないのかもしれない。ポーランドのクラクフからウィーンに向かうときに乗った寝台列車の方がベッド幅は広かった。
ただ、ロビーカーが併設されていて、そこは展望ルームの雰囲気があり、ここで、ゆっくりとコーヒーを飲むのも楽しみのひとつになるのかもしれない。