No.62 CHACOさんという漫画家
インターセックスであることをカムアウトして...
CHACOさんという漫画家
CHACOさん(左)
インターセックス...なかなか聞き慣れない単語かもしれない。「半陰陽」といったらわかるだろうか。それでもなかなかイメージはつかめないかもしれない。
トランスジェンダーや性同一性障害を説明するときには、生物学的な性(体の性、sex)、性自認(心の性)、ジェンダー(社会的・文化的な性)などの性を語る指標を使って話をする。組み合わせは何種類もあることになり、それぞれに微妙に性のあり方もちがっている。しかし、体の性の部分だけをとった場合は、男性か女性かということで話をしていく。体の性は、男性もしくは女性のどちらかという2元的な区分で、一応は話していくことになる。
しかし実際は、体の性ひとつをとっても、簡単に、男性/女性とは分けられないということが、今では分かってきた。今(2003年)から6年以上前になるだろうか。とあるパソコンネットのオフ会に出て、そこで会った一人の女性がいた。名前をCHACOさんと言った。漫画家を仕事にしているという。オフ会にいた人で、CHACOさんをよく知っている人もいた。ちょっと知られた人らしい。
けっこう豊満な胸をもち、私としては、とてもうらやましいかぎりだった。豊かな胸をもちたいという憧れがある私としては、CHACOさんのふくよかな胸は羨望の的ですらあった。
このとき、ご自身はヘルス嬢をされていて、そこでの体験をもとにした漫画を書くという、なかなかユニークな漫画家であったことを知った。このときに出ていた彼女の漫画の単行本を購入した(この時点のことなので"彼女"と言わせていただく)。漫画に出てくる彼女は、それはそれは立派で豊かな胸の持ち主として描かれていた。
数ヶ月前、このCHACOさんからメールが来た。突然のメールだったのでびっくりしたのだが、そこに書かれていることを読み、さらに驚いた。
胸の切除手術を行ったとか、自分がインターセックスだということがわかったとか、私にはなにがなにやら疑問だらけの言葉が並んでいたのだ。『だって、あんな豊かな胸をしていたじゃないの、女性そのものだったじゃないの』。
インターセックスには、いろいろなパターンがあるようなのだ。もっとも、トランスジェンダーも、その多様さにおいては負けないのだろうが。
先日(2003年6月某日)、あるお店で、たまたまCHACOさんと出会うことになった。実に何年かぶりの再会だった。全然違う。あのときのCHACOさんじゃない。別人だ。本当にそう思った。
メールをもらっていなければ、お店で私の横に座ったとしても、私はCHACOさんだと気づくことはなかったにちがいない。私が知っているCHACOさんは「女性」だったからだ。しかし、私のすぐ側にいるその人は「男性」だった。コワソーなニイチャンではなく、やさしそうな感じではあったのだが、でも、やはり「男性」だった。ポロシャツを着ていたのだが、胸のふくらみは、もはやそこにはなかった。
話を聞く。
男性ホルモンの分泌量が増えてきて、心の持ちようが、だんだんと男性になってきたというのだ。男性ホルモンは性欲にかかわるホルモンであるのだが、ムラムラっとする気持ちになってきたというのだった。その後、診療してもらい、自分がインターセックスだと分かったというのだった。基本としては女性の体なのだが、インターセックスであるため、男性ホルモンが多く分泌されるというのだ。ご自身も、男性として生きていきたいと思うようになったという。もはやここでは、CHACOさんのことを「彼」と呼ぼう。
今は、インターセックスである自分の体や心の持ちようを漫画のモチーフとして使い、微妙な体や心の変化を、専門の漫画という手法を使って描いている。視覚による説明はとてもわかりやすい。読む人に、インターセックスとは何なのかを広く知らせていくことに一役買っているような気がした。さて、世の中は狭い。えーっと驚くことがあった。
CHACOさんという彼のもとで、アシスタントとして働くスタッフがいるのだが、ここに、私の教え子の卒業生がいるというのだ。世の中、どこでどうつながっているのかわからない。
と思いきや、びっくりすることは、まだ続く。彼は、漫画だけではなくいろいろなクリエイティブな仕事をしているらしいのだが、その仕事にかかわっている高校生がいるよという話になった。ちなみにと、名前を聞いてみた。な、な、なんと、私が担任をした生徒だったではないか。世の中は、どこでどうつながっているかわからない。
担任をした生徒には、マイノリティであることを堂々とカムアウトして、明るく元気でクリエイティブな仕事をしている「彼」から、すてきな人生観を学びとってもらいたいと願わずにはいられない。