No.58 タイのトランスジェンダー事情(2)
2003年春、タイのトランスジェンダーの状況を見てきました。あまりにも多くのことを知り学び、日本とのちがいに驚いたものでした。
報告したい多くのことがあります。一挙に掲載できる余裕がないため、少しずつ載せていきたいと思います。
女性として仕事、すてきな理学療法士ヌニンさん
タイ国際航空でバンコクを発ち、マレー半島の中央部あたり、タイの南部の地方都市「トラン」に向かう。80分程度の飛行時間だ。
トラン空港は、ひなびた地方空港の風情。トラン市は、高層ビルが立ち並ぶバンコクの現代的な風景とはちがって、熱帯のまったりとした雰囲気を醸し出しているところだった。大都市バンコクや、観光地のパタヤ、プーケットのように、ニューハーフのショーが行われている大きなキャバレーがあるわけではない。トランスジェンダーを見る一般の人の意識は、バンコクに比べれば遅れているはずの地方都市である。
到着ロビーから外に出ると、背が高く、すごくきれいな女性がそこに待っていた。その女性こそ、ヌニンさんというトランスセクシュアルの人だった。2年前に性転換手術(性別適合手術)を行ったとのことだ。どうもこの日は、私たちのために休暇をとってくれたようだ。
さっそく、彼女が勤務するトランの病院に連れていってもらった。ここは公立の病院だ。
日本みたいな慌ただしさはなく、熱帯のまったりとした様子が漂っているところだった。
普段、彼女が勤務しているスペースに連れていってくれた。そこは、体が不自由な方がリハビリをしている空間だった。おじいさん、おばあさんがけっこう多い。明るく声をかけ、一人の患者のリハビリの様子を再現してくれた。
彼女がトランスセクシュアルであるということは、ほとんどの患者は知っているという。タイでは、トランスセクシュアルも含めて、レディーボーイと呼んでいる。
ヌニンさんは、患者さんから慕われているようだった。また、彼女は饒舌だ。タイ語のリズムある言葉遣いで、常に患者さんに声かけしている。そして、笑顔を絶やさない。あとで彼女に聞くと、笑顔で明るく話しかけることで患者さんの心をほぐしていくことが大切なのだということだった。
彼女からリハビリ訓練を受けていたおじいさんに聞いてみた。彼女のことをどうみていますかと。
「(トランスセクシュアルだということはもちろん知っている)全く、女性だと思っている」
とのこと。
おじいさんは、小さな地方市の普通の人だったのだが、「男が女になって...」などといった偏見は微塵もみられなかった。MTFトランスジェンダーを全く普通に受け入れているという感じをうけた。日本ではなかなか考えられない光景だった。
このあと、病院の院長に会って話を聞くことができた。
「どこの病院でも、偏見が全くなくなっているとは思わないが、私は、性のあり方がどうだとかいうことでは判断しない。仕事を行うにあたってのその人の能力をみて雇用する」 当たり前といえば当たり前の合理的判断なのだが、日本で、ここまではっきりと言い切る職場がどれほどあるだろうか。しかも、ここの病院は、公立病院なのである。
戸籍の性と実際の性とがくいちがうトランスジェンダーに対して偏見や差別があり、常勤職員としてはなかなか雇用されずパートタイム雇用を強いられる日本のあり方とは、相当にちがう気がした。
戸籍の性を実際に生活している性にあわせなければ、さまざまな不都合が生まれてくるとして、日本では、当事者が戸籍の性別変更を主張している。タイでは、戸籍にあたるIDカードの性別登録の変更は不可能なのだが、変更できるようにしようという表だった運動は見えなかった。戸籍の性と実生活での性がちがっていることが、仕事や社会生活の面で支障にならず、周りの人も普通に受け入れていっている状況が、IDカードの性別登録変更という課題が問題化しない背景なのかもしれない。
ヌニンさんは、トランの街中にあるタイ料理を出すお店に案内してくれた。タイ料理と言っても、地元の人がお昼ご飯に食べるお店であって、高級な料理店とはほど遠い。高級店では、外国人にも食べやすいように、スパイシーなタイ料理をいくらかアレンジしたものを提供することが多いが、ここでは、タイ人が食べるそのものの料理が並んだ。そこらへんにあるような木の葉や木の実がでてきて、それに、魚を発酵させたような調味料をつけて食べる。実に刺激的なテイストだ。グリーンカレーぐらいは、まあまあ美味しく食べられたが、他の料理をうまいと堪能するまでにはいたらなかった。未体験ゾーンの味を体験した、という感じだ。地元のヌニンさんがいなければ、こういったお店に入ることはなかったと思う。
5人でたらふく食べて300バーツ。日本円にして900円弱。物価の基準が全くちがうことを感じさせられた。
ヌニンさんは、このあと、トランの海に案内してくれる。トラン市街から車で40分程度のところにあるビーチである。アンダマン海に面している。世界的にも名高い観光地であるプーケットに続く海岸であり風光明媚なところだ。しかし、プーケットがあまりにも有名であるせいか、トランの海はまだ観光地化されていない。穴場が好きな、知る人ぞ知る外国人が訪れている。
「ハーイ、ルミコ.ビキニの水着を貸すから、水着になろうよ(もちろん英語での呼びかけだ)」
ヌニンさんは快活に誘うのだが、手術をしていない私の体をさらすのは、それはとてもできない。さっさと水着に着替えたヌニンさんの肢体は、まばゆいばかりにすばらしいプロポーションだ。盛り上がった胸の谷間があることに嫉妬の念をいだく。
「ハーイ、○○○○」
一緒に行った男性の方の名前を呼んで、誘惑するかのごとく、しかし、じっと見つめるのはダメだよと言うかのごとく拒否的な態度をとったりする。男性の視線が、ヌニンさんの胸に注がれると、「いやらしいわね」というようなそぶりをする。男性は完全に翻弄されたかたちだ。
理学療法士として病院で天使のごとく働くヌニンさん。片や、挑発的なビキニスタイルで男性の心をゆさぶるヌニンさん。病院で働いている姿からはとても創造できなかった彼女のもうひとつの側面であった。
いいなあ...うらやましい。キャリアをもつ1人の女性として、職場ではキビキビと働き、別の一面では、男性を魅了する女性。なんとなく惹かれてしまう。そういうことができない私は、ヌニンさんにたまらないコンプレックスを感じてしまった。
そんな私の心が見透かされたのかもしれなかった。船でのクルーズの途中で寄った小さな島の、いかにも南の楽園風のレストランのトイレで、思わぬ体験をしてしまうことになった。
一緒に入ったトイレで、化粧直しをしていると、「ヘーイ、ルミコ」と呼ぶので振り返ると、水着のブラを脱いで豊かな胸を私に見せてくれた。彼女のそこは、実に形よくきれいだった。
男性である自分の体を嫌い、女性の体を手に入れたヌニンさんが、自分でも十分に満足がいく芸術品を身につけた、その誇らしさを、私に見せたかったのかもしれない。
現在、トランでお会いしたヌニンさんとメール交換しあっています。ヌニンさんから、タイ南部の美人コンテストで優勝したときの写真が送られてきました。(左の写真)
とてもきれいです。でも、現在の、病院で働いているヌニンさんは、もっともっと輝いていると思います。
タイでは、ニューハーフ(タイではレディボーイと呼んでいる)の美人コンテストが大々的に開催されているようです。こういった状況も、日本とはずいぶんとちがいますね。
タイの海は、どこまでもきれい。アンダマン海の真珠といわれているプーケット島は、リゾート地として、日本でも有名。プーケットに続くトランの海も、まだ観光客が少ないだけに、隠れたリゾート地といえるかもしれません。ヌニンさんから、右側の写真も送られてきました。
彼女は、自分のスタイルなどの資質を活かし、日本で仕事があればと考えています。
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(このシリーズ、続きます)