No.33 3年B組金八先生の原作者の方と

3年B組金八先生 原作者
小山内美江子先生意見交換しました

 私のことに関する記事が、2002年1月26日付の毎日新聞に載りました(東京版ではカラー写真付)。この記事を読まれた小山内先生から、新聞社を通じて連絡があり、性同一性障害のことについて意見交流したいということで、同日夜、先生のご自宅までおうかがいすることになったのです。
 ホームページを読まれているみなさまはご存じかと思いますが、小山内美江子(おさない みえこ)先生は、あの超人気ドラマ「3年B組金八先生」のシナリオを書かれている方です。中学生・高校生はもちろん、大人の方もたくさんの方が見ていらっしゃるドラマだと思います。
 1979年から始まったこのドラマは、毎回、その時代に特徴的なことがらを軸として内容が構成されてきており、2002年1月現在進行中の「金八先生」は、FTM(女性から男性へ)の性同一性障害の生徒を軸としたテーマになっています。
 今回、性同一性障害のことがとりあげられたということは、この問題が「個人のきわもの的な趣味」として押しやっていくことができないという時代の流れが背景にあるのではないでしょうか。それは、公式には、1998年秋に行われた埼玉医大での性転換手術(医学用語では性別再指定手術)を契機として、それまでは、恥ずかしいこととして隠し通さなければならなかった「性を変える」という問題に、まじめに考えていこうという光が当てられてきた背景があるのだと思います。
 このようなとき、きわめて知名度がある小山内美江子先生が書かれる視聴率抜群の「3年B組金八先生」に、性同一性障害の問題がとりあげられたということは、この問題の社会への浸透度が格段に高まることはいうまでもありません。
 たまたま、小山内先生に、トランスジェンダー(性同一性障害)で公立高校の教員をやっている私のことを知っていただいたということは、自分自身が当事者であり、しかも、学校現場で、このような性同一性障害の生徒をどのように受け入れていったらよいのかとか、「性って多様性があるんだよ」「男/女の2つだけに分けられるものじゃないんだよ」と語っている私の意見を、「金八先生」のドラマ内容に反映させていくことができるかもしれないと思いました。
 教員で当事者である私が、超人気の学校ドラマに、この問題で何らかの関わりができることはとても重要なことだと考え、さっそく、お呼ばれに甘え、小山内先生のご自宅を訪問いたしました。

 都心を離れ、某駅からしばらく行ったところに建つ、マンションらしからぬ戸建て感覚のすてきな感じのお家が、先生のご自宅でした。
 夜7時過ぎにおじゃましました。
 先生と、アシスタントの方数名と、ダイニングで、夕食をともにさせていただきました。お肉のしょうが焼きがなかなか美味しく、今でも、その味が舌先に残っているようです。
 その後、別室で、テーブルをはさんで、小山内先生と、アシスタントの藤本さんも交えて、性同一性障害を始めとしたセクシュアルマイノリティの現況、そして、「3年B組金八先生」のこれまでの逸話とか、今回のテーマについてのあれこれなどなど、先生の含蓄あるお話しを聞かせていただきました。
 先生のお家におじゃましたのは、先生による私への取材という意味もあるため、私も率直に、性同一性障害や同性愛のこと、教師観や学校教育のことなどなど、自分の意見を臆することなく話していきました。
「金八先生の授業のとき、生徒が、あんなに真剣に聞くなんて、現実の学校現場を日々経験している者としては、ちょっと白々しい」
などと、小山内先生のお気に障るかもしれないことも言わせていただきました。
「現実そのものではない、ひとつのドラマだ」という説明で、一応、納得したりするような場面もありました(小山内先生、気に障ったらゴメンね)。

 小山内先生との話のひとつ...まずは、私の言。
「私は、熱血教師などというのはうさんくさいと思っている.熱血教師というのは、生徒をこのようにしたいと一方的に思っているのだが、昨今の生徒は、教員の思惑など、どこ吹く風とばかりに、教師の思惑など吹っ飛ばしてしまう.熱血教師は、自分の思ったようにならない生徒にたまらなくなって、思いのあまりに体罰を加えてしまうことがけっこうある.多様な生徒を受け入れるという感覚がにぶい.一方、ズボラ教師は、飄々と学校で仕事しているのだけど、「熱血」な思いが少ないだけに、いろんな生徒をそのまま受け入れていくことが多い.私は、熱血教員などにはなりたくない.いろいろな生徒をそのまま受け入れていける教員になりたい」・・・・概ねこのような話をしました。
 小山内先生曰く
「金八先生は、熱血教師ではないんですよ」
 一般の視聴者は、金八先生に「熱血」さを感じてしまう人も多いかもしれません。でも、よくよく見ていれば、金八先生って、けっこうスボラなところもあり、多様な生徒をありのまま受け入れようという姿勢がありありにみられると思います。よく考えれば、こういう先生は決して「熱血教師」ではないのだと思います。小山内先生の微妙な思いが、武田鉄矢が演じる金八先生にそこはかとなく伝わっていっている気がしています。
 「金八先生=熱血教師」というふうな単純な図式ではないという小山内先生の思いに、私も同感!と相づちを打ってしまいました。

 性同一性障害の生徒や同性愛の生徒を、ありのままに受け入れていこうという教員の姿勢は、「生徒をこうしたい」などと肩肘はるのではなく、茶髪だって、ピアスだって、そんなことで目くじら立てない、外見で生徒をみたりしない、リラックスして生徒をみていこうという態度とつながっていくのだなと感じているこのごろです。
 だって、茶髪・ピアスぐらいで目くじらたてていたら、性別は男なのに、スカートはいてお化粧する私などは居場所がなくなってしまうじゃない。「男らしさ」を外れた私の居場所と、茶髪・ピアスの生徒の居場所は、ひょっとしたら、どこかで重なっているのかもしれないなどと考えているうちに、小山内先生と過ごした数時間があっという間に過ぎてしまいました。
 少しも恐くない気さくな方でしたので、本当に楽しく過ごすことができた夜でした。

 この日は、東京は、冷たい雨が降りしきる日で、帰るときにはすごい雨。先生と仕事をされている方が運転する車で、私と同じ方向に帰るアシスタントの藤本さんと一緒に、先生の瀟洒なご自宅をあとにしました。
 藤本さんも楽しい方で、帰りの電車のなかで、ずーっとおしゃべりしあっていました。
 私のこと、どう思ってくださったかなあ。「すてきな女性」だと思ってくださったのならラッキーなんだけど、意地悪い女と思われたのじゃないかなあなどと、ちょっとした心配も含めてお別れしました。